乳がん手術における新しいセンチネルリンパ節生検

乳がん手術の変遷と
リンパ節郭清

悪性腫瘍の外科治療の原則は、腫瘍を含む広範囲の臓器切除と腫瘍からのリンパ流を受ける所属リンパ節の郭清(切除)です。
乳がん手術は、1890年代Halsted手術(乳房全部切除、大小胸筋切除および腋窩リンパ節郭清)→ 1970年代:胸筋温存手術 → 1980年代:乳房温存手術、と縮小化されてきました。
しかし、リンパ節転移の有無の術前診断が不可能であったため、腋窩リンパ節郭清は依然として続けられてきました。リンパ行性転移の防止、腋窩再発時の弊害予防、リンパ節への転移状況の診断において意義がありました。

腋窩リンパ節郭清が不要に

腋窩リンパ節郭清は、患側上肢の後遺障害(リンパ浮腫・リンパ管炎・疼痛・知覚鈍麻・挙上障害)を残すことがあります。 健診の普及などにより乳がんの早期発見が増え、現在では手術症例の7~8割はリンパ節転移陰性です。こうしたことから腋窩リンパ節郭清が不要なケースが多くなってきました。

『ICG蛍光法』:新しい
センチネルリンパ節生検

赤外線観察カメラシステム

ICG(indocyanine green)は生体内に投与されると血漿タンパクと速やかに結合し、750~810nmの光照射により蛍光を発します。この蛍光像を赤外線観察カメラシステム(PDE)で観察します。ICGをリンパ網が豊富な乳輪真皮内に注入し、リンパ流を経時的に観察します。

ICG蛍光法のメリット
  • 高い同定率・安全性
  • 皮膚切開部位の決定が容易で、創が小さくて済みます
  • RI法とちがって、どこの病院でも実施可能です
手技
  1. リンパ管が腋窩脂肪織深部に入っていく部分に3~4cm皮膚切開し、リンパ管を確認。PDEカメラガイド下にセンチネルリンパ節を切除します。
  2. 術中迅速病理診断に提出します。
  3. がん細胞陰性であれば腋窩郭清は省略します。陽性であれば腋窩郭清を行います。

当院の治療の体制および方針

◎当院には病理医・病理検査技師がおり、外科医の態勢も万全です。
◎インフォームドコンセント(説明と同意)をじゅうぶんに行います。
腋窩リンパ節郭清が不要となるケースが多いため、患者さまの術後後遺障害が非常に少なく、術後の生活の質を維持できる新しい治療法です。
希望される患者さまがおられましたら、外科を受診ください。